みなさんお元気ですか。英語の勉強はいかがでしょうか。飯島尚憲です。今日は、語彙指導の新しい方向性について語っていきます。諸外国と比較していると、それなりに大きなことであることがわかります。では、そんな語彙指導というのは、どんなものなのでしょうか。それについて、考えていきます。それでははじめていきましょう!
① 語彙指導=辞書の暗記、ではない
私もー過去の自分も含めてー高校生だった頃を振り返り「自分で考える」ということを苦手としていた。当時は、まだ、生成系の人工知能が発達している時代とは程遠かったので他のものに任せて考えるということができなかった時代です。紙上に自分の意見を書くということは、自分で考えたことを結果として書くわけです。
よって、見方を変えると、考えるという所作を通して、我々は長い文章を書くことができるわけです。それなりの長い文章を書くということは、自分の意見をより強固にするということでもあります。さて、ここから語彙の話に入ります。
そうです、考える上で語彙を適切に使いきれていない学生をー特に新入生の教養教育ではーたくさん見かけます。一般的に、語彙力というのは、語彙を「使い分けて使い切る力のこと」と表現されます。さて、使い分けて使い切るというのはどういうこと。これは基本的に語彙力と言われるものです。適切な時に適切な言葉を使えていないのは、ひとえに、この語彙力に乏しいところがあるからです。
ということは、ある人が「深く」思考してきたか否かというのは、その人の使用している語彙がその書いてきた文脈内において適切か不適切かで判断することができます。すなわち「使っている語彙でその人の知的レベルがわかる」という言説があるのは、ひとえにこのような事情に関係しているのではないかと思います。では、語彙を使い分けて使い切るというのは、もっと具体的にどのようなことを言うのでしょうか。
少なくともここでは、語彙の力=辞書に載っている言葉をどれだけ多く知っているか、ではないことは明らかです。語彙力というのは、そのようなものではないのです。そして、語彙力というのは辞書に載っていない言葉の知識も含むということは、語彙指導というのは辞書の知識を提供するものではないということでもあります。
②言語習得研究の中で軽視されてきた概念
さて、そんな語彙指導について、近年、見直されてきています。特に、アカデミックな分野では、語彙を専門にして研究している人が現れるようになりました。例えば、京都大学の笹尾洋介先生や立教大学の中田達也先生などです。なぜ、語彙指導というのは、そこまで流行ってきたのでしょうか。1つに、語彙がないと何もできないということです。
実は、文法のない言語は存在しないと言われています(田中,2013)。文法のない言語は存在しない。そして、文法というのは、語彙によって(=つまり、単語や熟語によって)構成されているということがわかります。よって、このように主張することができます。
語彙のない言語は存在しない
そうです、語彙のない言語は存在しないのです。もっと言ってしまうと、文法を知らなくてもある程度のコミュニケーションができてしまいますが、語彙を知らない限り、何一つとしてコミュニケーションを取ることはできません。これは、有名な言語学者である、Wilkinsの1972年の論文にこのようなことが書かれていたので、参考に書いておきます。「Without grammar, little can be conveyed, but without vocabulary, nothing can be conveyed」(文法がないと、ほとんどのことは意思疎通できないが、語彙がないと何一つ意思疎通することができない)。そうです、だから、語彙の暗記はしましょうね、ということです。もっと言ってしまうと、文法の知識と語彙の知識があれば、英文を読む上でほとんど苦労はしないです。
はい、こんな感じで書いてきました。では、その「語彙の知識」というものには、どんなものがあるのでしょうね。例えば、runという単語の「知識がある」という時に、何を、どのようにして知っているのでしょうね。
語彙については、色々と思うところはあります。そして既存の研究がどれだけそのことを軽視してきたのかも分かりますが、今までの研究をまとめてみると、以下の3つの知識があることが「語彙力がある」ということの証であると言われています。以下、羅列していきます。
<1>語彙の量
いわゆる「あなたはどれくらいの量の語彙を知っていますか?」ということです。Width of Vocabularyということもできます。語彙をどれくらい広くカバーしているの、というふうに置き換えても良いでしょう。まずは「高校受験レベルの語彙を知っている」とか「大学受験レベルの語彙を知っている」でもいいので、自分がどれくらいの語彙を知っているのか自分の心に問うてみてください。おそらく「ほとんど知っていない」と思う人が大半なのではないでしょうか。そういう人は、これから頑張っていけばいいだけの話。応援しています。
<2>語彙の質
これは、1つの語彙に対して、どれだけ多くの語彙知識があるか、ということです。これは主に「多義的な」、すなわち、1つの言葉の中に複数の意味がある言葉について使うことが多いです。1つの中に複薄の意味がある言葉。そういう言葉を「多義語」ということは、これまでの授業でも少し話したと思います。例えば、haveの意味をたくさん言えるということは、haveの意味をたくさん知っているということなので、その知識に対して語彙の質すなわち語彙の質があると言えます。語彙の質は、英作文を練習すると嫌でも訓練されます。
<3>認知速度
認知速度?と言われて、はっと来る人もこない人もいると思いますが、要は「どれだけその言葉を早く思い出せるか」ということです。その言葉について、どれだけ早く思い出せるかというのは、大事なことです。ちなみに「思いだす」という言葉、今、いくら思い出すことができましたか?、思い出せる言葉の多い人は、認知速度の高い人でしょう。ちなみに、思い出すというのは「recall」と「recoginition」という二つの意味合いが学術の世界ではありますが、今回は扱いません(recallとrecognitionについては、次回に扱います)。
というわけで、こんな感じで書いてきました。もう一度復習します。語彙の量・語彙の質・認知速度。これら3つがある状態が「語彙力がある」ということです。では、具体的にどのように、ボクは?(というよりも「語彙研究者」は?)語彙指導を流行らせていきたいのか?ということです。正直なところ、語彙の量は「学習者自身が単語集をやること」で対策が可能です(なお、ここで、学習者が単語をどのように覚えればいいのか、ということになってきますが、それについては以下の記事を参照してください)。
https://note.com/vocab_1213/n/n008abab2ec39
ボクがここで問題としたいのは、語彙の質と認知速度について、この2つのことです。
③語彙の質と認知速度を上げる方法
語彙の質と認知速度を上げる方法として、何が考えられるでしょうか。これには、語彙学習ストラテジーというものが関係します(Nation,2001)。ここでは、日本人の英語学習者に合った方法を考えていきたいと思います。まずは「どんなことを言っても、覚えたものが勝つ」ということです。強い奴が覚えるのではなく、覚えた奴が強いということですね。
はい、雑談はここまでにして。まずは「意味を覚えた上で」と言うことです。一つ考えられるのは、その単語を使った文を自分で作ってみること。実は、研究の世界では、自分で文章を作ることは「自分に負荷を掛けない」?とかいう、意味不明な理由で否定されることが多いですが、実は、めちゃくちゃな効果があることも知られています(Laufer, 2003)。
そして多くの文に触れることです。俗に言う「多読」のことです。多読と語彙習得は色々なところで研究されています(それこそ、出典を上げ出したらキリがないです、もうこれ以上に研究することがないのでは?と言いたくなるくらいです)。ここまで研究が発展してきたのかと思うと、文明の進化というのは素晴らしいですね。
ちなみに、認知速度を上げる方法は簡単です。「テストの時間を限りなく早くすること」。つまり、思い出すだけの時間を減らしましょう、ということです。他にもやり方があるのかもしれませんが、一応、ボクは認知速度を上げるというのは、記憶を想起する訓練をするということだと思っているので、記憶の速度上げたいなら、1つの単語を見たときに瞬時に意味が言えることが最も良いと思います。
④結論
というわけで、以上、語ってきました。語彙指導というのは、辞書の意味の暗記ではないということをはじめとして、では、語彙力があるというのはどういうことなのか?、そして語彙の質と認知速度を上げるにはどうしたら良いのか、解説してきました。次回は、語彙の質を高める方法を、皆さんのよく知っている言葉で語っていくことにしましょう。
参考文献
Nation, I. S. P. (2001). Learning vocabulary in another language (Vol. 10). Cambridge: Cambridge university press.
いわゆる語彙習得、語彙指導研究のバイブルと言われている本です。
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